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2006年 「月に向かって泳げ!」(2/5)

~サポーター(トラ)から見たドーバー~

2.「月に向かって泳げ!」
 「月に向かって泳げ!」。これは眞壁さんがフランスのビーチに到着する折に支援船シー・ファーラーのパイロット、クリスが「先に行け!」の意味で怒鳴ったものだ。その光景は月明かりが一筋の「道」のように反射する海面に、クルーのトニーが漕ぐゴムボートとその横を泳ぐ眞壁さんとの両人が、月に向かって進んでいる証拠の揺れる月光とシルエットを残してフランスに向かって行くシーンだった。トニーの胸からはウルトラマンのカラータイマーのようにフラッシュライトが点滅する。まるでそれはハッピーエンドで終わる映画の終焉にも似た幕切れであった。
 ラストシーンとしては「これ以上の演出は無い!」と断言できるほどステキなものだったが、このシーンが生まれるほぼ1時間前、眞壁さんは私にこんな質問をした。「流されていますよねぇ?」と。
 その声は実に力なく聞こえた。もう15時間近く泳いでいるのだ。“力なく”は当たり前かもしれない。それでもこういった場面で“正直”を真情にしている私は「はい。流されています!」と答えるしかなかった。元気付けようと「いえ、流されていません。大丈夫です!」と偽りの答えをしても、それはスイマーにとって何のプラスにもならないことを私は熟知している。
 辺りは真っ暗で、月明かりとフランスのどこかの家々の明かりだけが見えている。その明かりは“近づく”ではなく、右へ右へと流れているだけなのだ。左の遠くにはフランスのフェリーポート「カレー」とその町の明かりが輝き、泳いでいる向きとは違うカレーの方向へと進んでいる。GPSで流れの速度を差し引いた眞壁さんのみの泳速を算出すると、現在は時速1kmのスピードしか出ていない。それは泳いでいる方よりも、算出した私自身のサポートする自信を奪う条件が整っていたような気がする。
 まあ後から聞けばその時に「20時間泳いでやる!」と腹をくくったらしいが、今から2年前に見た同じ光景が走馬灯のように私の頭を駆け巡っていた。それは藤田さんの2回目1-wayソロのチャレンジだった。
 1回目は2004年7月24日、03:30に泳ぎ始めた。しかし原因不明の大腿部痛のため9時間47分で断念した。フランスまでは3/4の地点だった。もう一度チャンスをもらい、同年7月30日09:57に泳ぎ始めた。当然2回目の臨時申し込みなので泳ぐ順番は4番目。必ずしも良いポジションではない。この時の様子を藤田さんの報告から引用する。

 空の色が夕日の紅から濃紺へと変化すると、直に満月が顔を出してきました。それにしても綺麗です。私は贅沢な泳者です。1回目は朝日、2回目は夕日と満月と、とても綺麗なものを観られたからです。

 そう、眞壁さんの状況と似ているのだ。
 藤田さん(キンちゃん:ミユキ)のときの状況を、私の報告で引用する。

 ちょうど時間は23時ころである。「石井、ちょっと・・・」と言ってパイロットのニールが操舵室まで私を案内した。そしてGPSの画面を見せながら説明を始めた。「分かっていると思うがこれが本船だ。この線は船の向き。この線は現在の本船が進行している方向を指している。で、ちょうど今が潮流の一番速いとき。すなわちこの進行方向に進んでしまうわけだ。今のミユキの泳ぐだけの速さはハーフ・ノット(時速1km程度)。フランスのビーチが湾曲しているため流されてフランスの方が遠くなって行く。まああと6時間すれば転流するから元に戻る。そうすればミユキはフランスまで行き着くことが出来るだろうが、あと6時間持つだろうか? それにもう一つ問題があって、それは仮にミユキが6時間持った場合、この本船はカレー港の前を往復しなければならなくなる。カレー港は夜間でも船の航行は激しい。まして夜間では見難いしとても危険が伴う。だから・・・、ミユキには悪いが早く終わらせるため泳ぐスピードを上げるかやめるかにしてくれ」。
 海ではキンちゃんが1回目同様「アウウゥゥ・・・」とか、「ハァァァ~」とか、大腿部の痛みと寒さに耐える声が頻繁に聞こえ続けている。
 「これは苦渋の判断だ」と、ニールは私の眼をじっと見つめながら静かに語った。外を見るとカレー港にともる明かりがやけにまぶしく見える。ニールの言いたいことはよく分かる。デッキに出てキンちゃんを呼ぶ。「キンちゃんよく聞いて。今ね、流れに流されているんだ。だからフランスが遠くになっちゃう。このままだと6時間後にはフランスまで泳ぎ着く事が出来るかも知れないけど、そのためにはカレー港の前を往復しなければならないんだ。カレー港は夜間でも船の往来が激しいそうで、ニールは"危険過ぎる"と言っている。あとはね、キンちゃんが速く泳ぐしかないんだけど、今の状態では無理だろう。だからやめようと思っているんだ」。「えっ、じゃあ上がって良いの?」。「いやもう少し泳ぎ続けたらね」。「・・・・・・」。自分の中では『好転するんではないだろうか』という期待があって思わず出た言葉だったが現実は好転しなかった。ニールの言うとおり、フランスの明かりをよく眼を凝らして見ても、現実に変化は無かった。「キンちゃん、やめよう。もう上がって良いよ」。静かに私は言った。11:33。その遠泳は13時間35分で終止符を打った。フランスまで残り3kmだった。

 このような苦渋の決断を、『眞壁さんにもしなければならないのか!?』と思った。

P8060037
ドーバー海峡豆知識

  • 場所と名前:ドーバー海峡はイギリスとフランスの間にある海峡で最狭部は34km程である。またドーバー海峡をイギリスでは「チャネル」と呼ぶ。そしてここを泳いで渡った人には「チャネル・スイマー」の称号が与えられる。
  • 位置と水温:ドーバー海峡は北緯51度付近にあり、これを日本付近の緯度で現すと、北海道の更に北、サハリン(樺太)中央部になる。つまり夏でも水温は16℃程度と非常に冷たい。
  • 潮汐と潮流:ドーバー海峡の最大水深部は約50mと浅く、ここを大潮時では干満差が7m、小潮時でも3mの高低差という大きな潮汐が生まれている。つまり、潮流が速い。
  • 泳ぎ方1.:ドーバー海峡を泳いで渡るには、当然小潮時を狙うことになるが、それでもこの低水温と速い潮流に翻弄されながら泳がなければならない。当然最短距離の34kmを泳げるわけはなく、6時間毎に転流する潮流で、蛇行しながら泳ぐ形になる(サンプル参照)。
  • 泳ぎ方2.:1-wayとは片道、2-wayとは往復、3-wayとは1往復半、4-wayとは2往復を意味する。

P8060155
サンプル
左上がイギリス、右下がフランスである。航跡は大きく蛇行しているが、サインカーブの頂点から、連続する次のサインカーブの頂点までがほぼ6時間である。このように潮流の影響で蛇行する。

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