「キンちゃんが行く」Vol.14
1. サイパン35時間80km泳の報告
- 日付: 2008年1月30~31日(水・木)
- 場所: マリアナリゾート&スパ(屋外50mプール)
- 泳者: キンちゃん
- 方法: 30日07:00より31日18:00までに80kmを泳ぐ
- 記録: 22時間24分31秒、50.8kmでリタイヤ
- 天候: 大雨 曇り 晴れ(大忙しの天気)
- 気温: 25.6~30.1℃
- 水温: 26.5~28.0℃
- ピッチ: 59~77回/50m
- 補給品: 炭水化物、果糖、お茶類
2. 今回の計画
去年(2007)の10月、アメリカにいる日本人プロスイマーの松崎祐子さんから日本にいる石井コーチへビデオ付きのメールが届いた。それは松崎さんが湖で「82kmを30時間かけて泳いだ内容」のビデオとメールだった。場所はアメリカ、オーランド。通称「ラッキーさんちの湖」(正式名称「レイクケイン」)と呼ばれる湖で、松崎さんは「世界新記録(湖を水着で泳いだ世界最長記録)」を作ったそうだ。
松崎さんに言わせると、「夕方6時にスタートしなければならなかったので辛かった。何故ならば夜を2回迎えるので寝てしまうからだ。」だそうである。さらに「言い訳がましく言わせてもらえば、朝6時にスタートしていれば、もっと記録は伸びていたと思う。それにプロスイマーとしたら30時間で82kmは記録が悪すぎる。」だそうだ。とにかく3回も昼寝をしたそうで、「今度は得意な朝型、朝6時にスタートして100kmを泳ぎたい。」と語っていた。
まあプロのスゴイ話で私にはとても及ばないが、2006年11月に、私も「30時間70km泳」を成功させた。これは去年(2007)チャレンジした「ドーバー2-way」のために行われたもので、ドーバーの最短距離(約34km)の2倍で68km、直線で泳げるわけはないので70kmと言う単位を算出したものだった。場所は今回と同じ、サイパンの屋外50mプール。
しかし昨年のドーバーが1-wayのみで終わってしまった。以来石井コーチは「今度は必ず“80km泳”をするぞ!!」と鼻息を荒くしていた。そして今回を臨んだのである。コーチの計算によると、「35時間で終わらせなければならない。」のだそうだ。松崎さんの影響も大いにあったのでは・・・???
3. 睡眠グ
結果から言うと22時間24分31秒、50.8kmでやめた。理由は「眠かった」の一言だ。「どんな状態でも100mで3分は越すな!」と石井コーチから散々言われていたが、非常に眠く、“睡眠グ”状態になるとどうしても3分は越してしまう。
まあ寝ながら泳ぐのはもう得意になったが、今回は寝る時間が長過ぎる。腕をコースロープに絡ませたりぶつけたり、壁にぶつかれば「キャー!」と言い、途中では手が止まり、プールに浮いて夢まで見てしまうほどである。鼻から息を吸い、水が鼻に入ると“ハッ”と目を覚まし、再び泳ぎ出す・・・。こんな状態をずっと繰り返していたのである。
何回も何回も繰り返しているうちに寒気が来て、眠気と寒気と疲労感で「泳ぎきろう」という意欲が何処かにいなくなってしまい、石井コーチからの「50km!!」というコールを聞いてから「もうやめよう。」と決意し、まれにない22時間24分31秒、50.8kmで終止符を打ったのである。
石井コーチは怒りに怒っており、その後はず~っと説教。日本に帰ってからも説教。キンはず~っと怒られっぱなしであった。
4. No pain, No gain.
1月27日に行われた「大阪国際女子マラソン」で、「トラックの女王」と呼ばれた福士加代子さんのニュースをテレビで見て、あの何回転んでも立ち上がり、最後には笑みまで浮かべて走り続け完走したシーンに私はすごく感動し、「この人はやはり“女王”である。」と確信した。
人はその場面を見て「かわいそう」とか「練習不足」と言うが、私は途中で諦めずに走り続けた福士選手は「スゴイな」と思う。走っている最中、横から監督に「もうやめなさい」と言われたのに走り続けたとき、普通なら足が痛いし、もう限界まできているから、甘い言葉が出れば人間すぐにやめてしまうのに、私だったらたぶんすぐにやめてしまい、転んだら立たないかもしれない。
笑みを浮かべ、「私は福士、“トラックの女王”。負けてたまるかぁ~!!」という気迫がすごく伝わってきた。
以前、私はハーフマラソンに出たことがある。距離は違うが私の練習は福士選手に似ていた。練習で私は10kmしか走ったことはなく、本番で初めて20kmを走ることになったのだ。
途中、10km地点まではトップから3番目だったものの、それから奈落の底に陥り、一番のドベになった。膝、足首など、地面に着くだけで“ズキン、ズキン”と痛くなり、我慢しながら完走したが、その時の後遺症が未だに膝に残っている。
テレビでやっていたが、人間“棄権”を決断するとき、「次のレースがあるから」、「3位まで入れないとわかったから」、「これ以上走ると身体にダメージが残るから」というパターンがあるらしい。たぶん、福士選手の頭にもこのようなパターンは入っていたと思う。人は「やめなかったからまだまだプロではない。」と言う。確かにそうかもしれない。しかし今の福士選手は身体にダメージを受けているが、「完走すること」を取ったのである。
そう、石井コーチが最近よく言う。「“No pain, No gain”、この意味をわかっているのか?」と。この“No pain, No gain”は、ドーバーのビーチでCS&PF(ドーバー泳を公認する団体)にしか売っていないパーカーの背中に書かれている文字で、この“pain”とは「痛み」のことを言い、“gain”とは「利得」のことを指している。「痛くない、利得がない」と訳しそうだが、これは「痛み無くして、利得はない」と訳す。しかもこれは英語のことわざで、もう少し深い意味があって、上手に訳すと「苦労なくして、得られるものはない。」となる。
昨年、私がドーバーを泳いだときに同行してくれたイギリス人ジャーナリスト、トムは、その記事の最後にこのような言葉で締めくくってくれた。
『チャンネルスイマーはシュロップシャのダウリーにあるキャプテン・ウェッブ(史上初のチャネルスイマー)の記念碑に刻まれた言葉の本当の意味を誰よりも理解している。“Nothing great is easy.”「偉大なことで、簡単に手に入るものは何もない。」』
この“Nothing great is easy.”が“No pain, No gain.”と同じ意味だと私は解釈している。
と、このように理屈ではわかっているのだが、身体の方はというと理屈通りにはなかなかいってくれない。「“わかる”と“出来る”は違う!」、「“やらない”と“出来ない”は違う!」と口癖のように怒るのは石井コーチの説教。すでに石井コーチは「もうオレは“35時間80km泳”などやらん!」と、ずぅ~っと怒りまくっている。
まあ泳がなければならないとは思うが、実際になると2回も昼間を迎えるわけで、あのサイパンの直射を2回も身体をさらしたら、どんな日焼けによる火傷を起こすだろうと思うと、その方が気になって、現に“30時間70km”を泳いだときは耳が火膨れしたほどの大火傷になって、それこそ「耳なし芳一」ならぬ「耳なしキン」が出来上がるところだった。
日焼け対策をやっていないわけではない。“日焼け止め”は泳いでいると取れちゃうのである。そんなキンに石井コーチがしつこくくどい説教を。
『今までによく「海は怖いから泳がない。」と言う人がいた。そう、海は危険がいっぱいだから、そういう人は泳がないほうが良い。だが以前からオレは、「危険だからやらないのでは問題の解決にならない。危険と知っているなら、どうやったら安全に出来るかを検討し、実施するのが人間の英知である。」と言ってきた。“顔が日焼けして火傷しちゃう・・・。”ま、「日焼け対策をすれば良い。」とオレは簡単に答えを求めてしまうが、泳ぐのはキンだからね。嫌々やるならやめたほうが良い。』
でもね、いちおう私も“女”なんだけどなぁ~・・・。と、理屈では前向きにならなければならない自分と、現実を考えると・・・、というもう一人の自分がいて、心の中で葛藤に苦しんでいる私であった。
5. ホテル
話は元に戻るが、普段、サイパンで私が使うホテルは「ハファダイホテル」とか「グランドホテル」だが、今回は「オーシャンビューホテル」だ。ホテルのランク付けをすると格下のホテルだし、初めて利用する。まあ場所くらいはわかっていたが、何がどうなっているかはぜんぜん知らない。いざ、部屋に入るとポットはない。冷蔵庫はない。部屋の外にも製氷機がない。と、“ないないオンパレード”だ。普段、何気なく使っている用品がないと、まあ普段、いかに楽をしているかがわかる。
ちなみにサイパンの法律で、夜、22時以降はビールなど酒類の販売は禁止されている。名古屋のセントレアからサイパンに行く飛行機は夜行便で、サイパン時間の翌日午前1時頃に到着する。ホテルに到着するのは午前2時頃。当然ビールなど手に入るわけがない。しかしそこはそこ、すでに旅慣れている私たちは、石井コーチがスーツケースの中に缶ビールをたくさん忍ばせてある。ただ問題はそのビールをどうやって冷やすかだ。
ホテルのフロントで聞くと、「ガソリンスタンドがコンビにもやっており、そこで氷が手に入る。」とのこと。その24時間営業のコンビニに行くと、隣はマクドナルドであった。氷は縦50cm、横30cmくらいの大袋にぎっしり入っていて1ドル。かなりの量であった。サイパンで氷を買うなんて初めてだが、それから買い物に行くと氷の値段をチェックするようになった。ハファダイホテルの横にあるスーパー「ジョウテン」では同じ袋詰めで1ドル25セント。今のところガソリンスタンドのコンビニが1番安い。
とりあえず私たちの目的は「35時間80km泳」なので、プールサイドで栄養補給や石井コーチたちが食べる食事の用意が出来なくてはならない。したがって包丁にまな板、食器、ガスコンロなど、キャンプ用ではあるが、いちおうに持参してあるのでお茶やスープを飲むなど、お湯を沸かすのは問題ない。それどころかこのホテルで“冷やす方”に問題があったため、ホテルの付近をウロウロ散歩し、何処に何が売っているか、散策が良い経験になった。普段はクルマで何気なく通り過ぎていたマクドナルドも、歩いて買いに行った。
ホテルの従業員も現地人やフィリピン人で、日本人はいない。かたことの英語やタカログ語を話す私は、このこぢんまりとしたコミュニケーションがとても面白かった。このように新しい発見が出来、私はこのホテルがお気に入りになってしまった。
ああ、ぜんぜん話がずれてしまったが、とにかく今回のサイパンはズタズタだった。
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