ドーバーと津軽の海峡横断泳報告(2007) Vol.01
1. 海峡を泳いで渡るのに都合が良い日
海峡横断泳は、季節が夏、時期は小潮周りが良い。ちなみにドーバー海峡の横断泳をサポートし、公認する団体“CS&PF(Channel Swimming & Piloting Federation)”でも小潮周りを「泳ぐ期間」としている。そして、今年の小潮周り(CS&PFが発表した泳ぐ期間)は次の通りである。
(表1.)小潮期間(2007)
- 6月中旬~7月 1日
- 7月 7日~14日⇒キンちゃんドーバー1-way
- 7月20日~29日
- 8月 6日~12日⇒キンちゃんドーバー2-way
- 8月19日~26日
- 9月 4日~10日⇒キンちゃん津軽縦横断1-way
- 9月17日~24日
(「CS&PF」より)
「⇒」の後は今年のキンちゃんの予定を記入した。ただし津軽では日本時間に直すので9月3日~7日とした。
我国では「表1」による1、2は「梅雨」の時期で、5、6、7は「土用波」の時期である。すなわち我国の海峡横断泳に最も適した時期は3、4で、年間を通してもチャンスはこの2回くらいしかない。同時にこのような季節による特徴のある天候の傾向が我国だけにあるのではなく、諸外国でも同様で、ドーバーでも3、4の時期にスイマーが殺到している。
更に調べると成功率の最も高い時期は「4」であった。そこで今年のメインイベントである「ドーバー2-way」は「4」にした。またこのメインイベントを中心にキンちゃんの疲労や体調を考慮し、「ドーバー1-way」は「2」に、「津軽」は「6」に持っていったのである。しかしこれらはあくまで「統計と確率」で、実際はその日になってみないと天気も海の状態もわからない。
2. 今年のドーバーは
今年のドーバーは天候が悪く、イギリス上空は「ジェット気流」が停滞し、常に低気圧がイギリス本土を覆っていた。記録的な大雨が降り、各所で洪水が氾濫し、農業や畜産業では大打撃だったようだ。また、日本を出発する前から「今年は天候が悪いので、日程の変更希望者は早めに予約したパイロット(伴走船の船頭)とコンタクトを取るように。」と、ドーバー泳を公認する協会のセクレタリーから連絡があった。これは異例なことだ。しかし、我々がパイロットとの予約を取ったのは1年前のことで、それに合わせて飛行機や宿の予約も取っている。おいそれと簡単には日程変更が出来ないのだ。それは例えばイギリス在住の方なら問題は少ないだろうが、我々のように遠く外国からドーバーへ訪れる者には無理難題であった。
実際に今年のドーバーは天候が悪く、気温が上がらずに毎日暗い雲に覆われた日々が続いていた。そのような中でも7月10日、「梅雨の中休み」のような悪天候の隙間にキンちゃんは1-wayを泳いだ。
イギリス⇒フランス 13時間59分 成功
しかし表1による「3」の日程で有力なアメリカ人女性スイマーによる1-way、2-way、3-wayのソロ(独泳)スイムが行われたが、悪天候のため、誰一人1-wayすら成功させた者は出なかった。他のスイマーもそのほとんどが失敗に終わっていた。それほど今年のドーバー(イギリス)は天候が悪かった。
事実、実際にキンちゃんの2-wayを泳ぐ予定日は「4」の8月6日だったが、天候が悪く急遽取りやめになった。しかし滞在できる時間もあまりないので、「絶好の日和」とは言えないが、今回の本命である2-wayを8月10日に泳いだ。
イギリス⇒フランス 13時間54分 成功
フランス⇒イギリス 大腿部痛のため断念
1-wayは泳げたものの、帰りは大腿部痛のため泳がなかった。それでもこの悪天候の中、1-wayを成功させたのは、この日に泳いだスイマーの中ではキンちゃんだけだった。このことだけは付け加えておきたい。
ちなみにキンちゃんはこの横断で日本人では最多の5回泳いだ新記録を樹立している。イギリス風に表現すると、“Queen of the Channel in Japan”(日本のドーバー海峡横断泳の女王)となった。
3. 台風9号と津軽海峡
あくまでも統計と確率の話だが、北海道には「梅雨も台風も来ない」と相場が決まっている。しかし台風9号は関東地方に上陸するとそのまま北上し、我々が泳ぐ予定の津軽海峡を横断して北海道に訪れた。
泳ぐどころの騒ぎではなく、生まれて初めての「非難」を強いられた。当然、津軽海峡は泳げずに終わった。
今振り返ると、今年は不完全燃焼の夏だった。詳しくは徐々に掲載していきたい。
4. 海峡横断泳の方法(ソロの場合)
ドーバー海峡横断泳を公認する団体の規則を簡単に紹介しよう。
1.出発日時の決定権
出発日時の決定権は、泳者の予約した伴走船のパイロットにある。
あらかじめ定められた泳ぐ期間(小潮期)に、パイロットより泳ぐ予定の24時間前に泳者へ連絡がある。その指示に従うこと。(泳者に決定権はない。)
2.出発と到着
出発は、泳者の身体の全てが陸上にあり、オブザーバーの出発合図を持って出発とする。
到着は、泳者の身体の全てが陸上にあり、オブザーバーの到着合図を持って到着とする。(到着地によって例外があるが、オブザーバーの判断によって、その指示に従うこと。)
3.泳中
泳中に泳者は、船舶に触れる。他の泳者に触れる。など、横断泳の補助的行為をしてもらってはならない。
ただし、他の泳者が1名まで、1時間までなら伴泳をしても良い。
4.水着
標準的な水着を1枚着用のこと。ウェットスーツなど、保温、浮力の増加、抵抗の軽減などの目的を持ったものの着用は禁止。
ただし、脂類を身体に塗ることは認められる。
以上、よく聞かれる質問の答を上げた。
次にキンちゃん独自の方法を上げてみよう。
1.泳法
クロール。3ストローク1ブレッシング。つまり3回手をかいて1回呼吸する。この方法だと左右に息継ぎすることになる。息継ぎのときに伴走船の位置確認をしているが、伴走船がキンちゃんの右側でも左側でも伴走することが可能になっている。(この泳法は、海を泳ぐ全ての泳者にお勧めする。)
2.栄養補給
「マキシム」(商品名)と呼ばれる炭水化物(エネルギー源)97%、ビタミンB2(炭水化物誘導体)2%を主体とした栄養補給品に、グルコース(果糖:糖質)とお茶(味付け)を混ぜた液体300mlを40分毎に飲む。
1回の栄養補給でご飯なら小さな御飯茶碗で軽く1杯分。パスタなら約半分。食パンなら1切れちょっとカロリーが摂取できる。
3.補給方法
「プラティパス」(商品名)と呼ばれる柔らかい携帯水筒に栄養補給品300mlを入れ、“貼るタイプ”の使い捨てカイロでサンドし加熱する。
更にこれを保温バッグに収納し約6時間経つと、栄養補給品は60℃くらいに加熱される。
船上より加熱された栄養補給品入りプラティパスにロープをくくりつけ、それを泳中のキンちゃんに投げ、受け取ったキンちゃんが栄養補給品を飲む。
補給品が熱すぎた場合、ドーバーの水温はほぼ16℃程度なので海水に浸けて置くだけですぐに冷却される。
これをキンちゃんが受け取ってから飲み終わるまでを10秒以内で完了するよう訓練した。泳ぎの停止時間を極力控えるためにである。
この加熱方法は、火を使わずに加熱する方法として石井が考案した。
以上、よく聞かれる質問の答を上げた。
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