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泳いでいるモノは






7月19日、木曜日。本日のドーバーは日本で言う「梅雨の中休み」。朝から穏やかに晴れ、久しぶりに真夏のドーバーの装いになった。こんな日に泳がない手はない。

キンちゃんの肩や首も順調に回復しているようで、夜間から朝に掛けては少しは痛むようだが、今は肩や首の捻転運動をさせながら気分はすでに海の上のようだ。

ビーチに到着する。辺りを見渡すがオーストラリア人たちや子連れスイマーファミリーはいない。「直に現れるだろう。」とあまり気に止めなかったが、気に止まったのは海上を泳ぐトラックだった。

このトラック、日本のダットサンクラスの大きさで、荷台の煽りには結論大きなホンダの船外機がついている。また荷台の両脇の外側にドラム缶を抱えているが、これは船外機の重量に対する浮力の向上と、海上におけるトラック全体のバランスを取るためだと思われる。どこから来たのか不明だが、どうも我々がいるビーチに上がりたいらしい。

トラックの周辺には大きなビデオカメラを構えたゴムボートが数隻周辺を囲み、陸上からも大きなレンズを付けたカメラが数台このトラックの行方を追っている。我々も側まで行ったのだが警備員らしき人に「下がって!」と注意をされてしまった。

洋上を進む姿はやはりトラックで、当然前から来る水の抵抗など考慮されたアレンジはない。それを大きな船外機で無理矢理進ませているから後ろに出て行く推進力の水飛沫は激しいものの、実際のスピードはあまりない。

タイヤが地に着くだろう浅瀬に来て、これからが陸に上がるクライマックスだと思いきや、動力輪の後輪が地面を捕らえるのに充分な重力を得られないのか、船外機で“ガァーッ”と押しているものの上手く上陸出来ないようだ。挙句の果ては車輪を回すエンジンが止まってしまった。可哀相にトラック君、波の崩れる辺りでは波が車内に打ち込んで来るので、少し沖に出たところまで下がってからボンネットを開けられ、修理と相成った。

結局のところ、揺れる海上ではエンジンの修理が完了出来ず、クライマックスは迎えることなくトラック君は船外機で海上を退散することになった。まあ見ている分には充分面白かったし、ビルジ弁がトラックの扉のカギ穴を使っているようで、時折そこから水が“ピューッ”と吹き出しているのがわかる。なるほど創意工夫は見られるが、元来陸上用に作られたトラックを、海上で走らせるアイディアに問題があるのではないかなと思った。

いやいやそういう日本的な固定概念は良くない。もっと自由な発想と、それが出来る環境が日本にも必要なのだ。そう言えばドーバーを泳ぐ目的で動画をパソコンで検索したら、乗用車を改造して海上でも乗れるようにし、ドーバー海峡を横断しているビデオを観た。お暇な貴兄は検索してみると良いだろう。確かGoogle系列の動画検索エンジンで、「channel crossing」辺りを検索していただければヒットすると思う。ドーバー海峡横断泳は人間だけが泳いでいるわけではないのだ。

しかしまあ人間の方に話を戻そう。おそらくオーストラリア人たちがいないのは、今日辺りの天候なので、たぶん今ごろ海峡の真ん中を泳いでいるのではないだろうかと想像した。確かに潮回りは良くないし、泳ぐ期間でもない。だがパイロットのホワイト夫妻は予約したスイマーが溜っていたし、今日のこの好天を使わない手はない。なぜならば週間天気予報は“今日だけ”良い天気で、後は雨など悪い予報ばかりだったからである。それに海に出ない日は毎日ビーチにやって来るホワイト夫妻を今日はまだ見ていない。トラック君が海上でボンネットを開けて修理をしている頃、ビーチには女性リレーチームが現れた。キンちゃんは彼女らと泳ぐことを決めたのである。

ところが「女性リレーチーム」と勝手に決め付けていたのは私の方で、実際はアメリカ女性のソロスイマー集団だったのだ。中にはすでに2wayは経験済みで、3wayを狙うマルセラ・マクドナルドや、1wayは経験済みで、2wayを狙う者など、ツワモノ揃いのエリート集団なのだ。キンちゃんが「私は日本のミユキです。」と挨拶すると、「ああ、あなたが2wayを泳ぐミユキなのね。宜しく!」と挨拶された。すでに有名なキンちゃんは「今日は肩が痛いのでゆっくり泳ぎますが、宜しく!」と言うと、アメリカ人特有のフレンドリーな態度でキンちゃんを迎えてくれた。それにしてもたいへんな連中と泳ぐことになった。無理しなければ良いのだが…。

岸から見ていても、彼女らは群を抜いて速かった。それでも後からゆっくり追いかけるキンちゃんを待っていてくれる。気立ての優しいアメリカ人女性集団なのだ。

キンちゃんはものの1時間ほど泳いだところで戻って来た。キンちゃんと一緒に2名の女性スイマーも戻って来てくれた。ビーチに上がってスイムキャップを取り、ブロンドの髪をなびかせながらサングラスを掛けた容姿は、さながらスクリーンからそのまま飛び出した映画スターのようだった。足は長いしスタイルは抜群!

今日はビーチでとても良い眼の保養をした。

ちなみに写真は余儀なく退散したトラック君。何処から来て何処へ行ったのか、未だに不明だが…。

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